田崎理事長が不定期に更新するコラムです。診療内容の解説や健康維持のアドバイスなどをお届けします。
最近、物忘れがひどいし足元が不安定で歩けば転びそうになる。かといって家でじっとしていれば手足が冷えてトイレも近くなる。これは老化? それとも病気?
老化とは遺伝的にプログラムされている自然なプロセスであり、誰にでも共通して発生するものです。時間とともに進行し、身体の機能や外見に変化をもたらす不可逆的現象とも説明されます。誰もが物忘れは出てくるし、歩行も不安定になるしトイレも近くなる。これは老化ということか。
一方で病気とは、遺伝的要因だけではなく環境要因や生活習慣も影響し、身体機能や外見の変化だけではなく、身体や精神に著しく有害な影響をもたらすものと説明されます。その発生の仕方は個人によって異なり、時には治療により改善することもあります。物忘れや歩行、排尿機能低下は有害な影響をもたらすこともあれば、一部の症状は投薬やリハビリで改善することがあります。ということは病気なのか。
最近「老化=病気」であり老化も治療が可能と言われるようになりました。加齢は誰もが毎年1歳ずつ一定速度で進む一方通行の過程であり、止まることも後戻りすることもありませんが、これに対し老化は生物学的年齢と説明され、加齢とは異なり可逆的で生活習慣や治療次第では、減速させることも巻き戻すことも可能と考えられるようになったのです。2019年には世界保健機構が発表した国際疾病分類においても、老化とは人類が克服すべき治療対象の病気であると定められました。老化と病気は違うものではなく同じもの。今後医療技術や遺伝子解析が進めば誰もが健康で100年以上生きる世界も普通になるかもしれないと言われています。
ただ、世界規模での老化治療の実現には、食糧問題や医療経済、移民問題や先進国の少子化など切り離すことのできない様々な問題を抱えています。まずは、運動とか塩分制限など日常生活において自分でできる範囲で老化治療に励みたいものです。
病院で検査を受けた時にもらう検査結果に基準値が表示されていることがあります。この基準値に照らし合わせて自分の検査結果が正常かどうか判断している方も多いと思います。しかし、基準値だけでは正しい判断ができないこともあるので注意が必要です。
基準値は、病気のない健常人の検査値を集計し、その平均値を中心にして全体の%の人が含まれるように範囲を設定したものです。そしてここが重要なのですが、この範囲に含まれなかった5%の人たちも全員が健常人だということ。すなわち基準値から外れても直ちに異常とは言えないのです。また基準値は40~60歳代の健常人の検査値をもとに集計しているため、若年者や高齢者では病気ではないのに基準から外れたり、その逆の場合もあるのです。それでは、検査結果はどう見ればよいのか。基準値との比較も無駄ではありません。実際に基準値から外れた場合に病気である可能性は高くなります。これに加えて確認しておきたいのは、検査結果の経年変化です。貧血の数値が常に基準値を下回っていたとしても、他に病気もなく数値が長年変化しない場合は、95%から外れた健常人の可能性が高くなります。これとは逆に、例えば腎臓機能の数値が常に基準範囲の人でも、検査をするたびに腎臓機能低下が進んでいる場合は、すでに病気が始まっている可能性も考えられます。
基準値は大切な指標ですが、必ずしも正常値を示すものではありません。かかりつけ医の説明をよく聞いて自分の検査値を正しく理解しましょう。
厚生労働省では、成人の塩分摂取量を男性7・5グラム未満、女性6・5グラム未満、高血圧症や腎臓病の人は6グラム未満とするようにすすめています。しかし、それを知っても「それでは塩分制限始めるぞ!」となる人は、あまり多くないのでは。でも実際には、塩分制限を始めると意外といいことがあるんですよ。
①心筋梗塞、脳梗塞、腎臓病、高血圧などの危険を軽減できる
「それは聞いたことあるけど、食事のときにはつい忘れてしまう」
②血圧が下がれば薬を減らせる、特保のお茶も買わずに済む
「ほお、薬を減らせるのはいいな。お金の節約にもなる」
③味覚が改善し食材がおいしく感じられる
「そんなことあるのかな?でも本当ならちょっと興味があるな」
④調味料の使用量が減るので家計の出費を減らせる
「意外と醤油や味噌はしょっちゅう購入しているものな」
⑤夜間頻尿が改善することがある
「へえ、塩分減らすと夜間トイレに起きにくくなるのか」
⑥むくみが取れる体重を減らせる
「え、本当?それなら塩分制限がんばってみるかな!」
さっそく今日から始めてみましょう。せっかくなので上手に制限しましょう。安定した塩分制限は、まず毎日摂っている塩分量を知ることから始まります。
現在、食品表示には「食塩相当量」が表示されています。商品を買うときや食べる前に確認する習慣をつけましょう。インターネットなどではメニュー毎に塩分の目安も紹介されています。最近多く見かける減塩商品はおいしさを損なわず塩分を抑えたものもあります。活用してみましょう。
毎日適度な運動をすると塩分制限により得られるメリットは増加します。これからは、自粛生活でなまった体をどんどん動かしてみましょう。
できればやせたい。医者からカロリーを抑えるように言われている。いろいろな理由で食品のカロリーを気にすることがあるのではないでしょうか。
しかし、こう考えたことはありますか。食べても体に吸収されなかったものは、やがて糞便として排泄されます。その排泄された分のカロリーは、表示されているカロリーから差し引くことができるのではないかと。
糞便1グラムあたり約2〜3キロカロリーと言われます。仮に100グラムのうんちをすれば最大300キロカロリーを表示カロリーから差し引くことができる計算になります。しかし、残念なことにこの考え方は問違っているそうです。現在の食品表示は、糞尿として排泄されるエネルギーを差し引いたエネルギーが記載されているのです。表示カロリーからうんちのカロリーを差し引いてはいけないのです。
ただ、食品表示も真の摂食カロリーではないとされます。食品表示には、食材の吸収に必要なエネルギーが考慮されておらず、例えばたんぱく質を吸収するには約30%、炭水化物は10%、脂肪は2%のエネルギーを必要とします。つまりたんぱく質は100キロカロリー摂取しても70キロカロリーしか吸収できないのです。これ以外にも食物繊維の摂取量や腸内細菌叢(腸内フローラ)の状態、年齢、アルコールなど体に蓄えられないエネルギーといった、さまざまな要因により摂食カロリーは変わるそうです。 それでは、カロリー表示は役に立たないものなのか。決してそのようなことはありません。年齢や性別に見合ったカロリー表示に基づく食事制限は、健康寿命を長くすることが分かっています。カロリー表示は、よく見るようにすると良いようです。
ロキソニン、セレコックス、ボルタレン、バファリンなど非ステロイド性消炎鎮痛薬は、いわゆる「痛み止め」として非常によく処方される薬です。炎症に関わるプロスタグランディンという物質を抑えることで鎮痛効果を発揮します。プロスタグランディンは炎症だけでなく普段は腎臓や胃腸の血流を良くする働きもしています。痛み止めはその働きも抑えてしまうので腎臓が障害されるのです。
また、むくみの解消、心不全の悪化防止などに使用される利尿薬や、ACE阻害薬、ARBと呼ばれる種類の高血圧薬圧薬を服用している場合、痛み止めを一緒に服用することで腎臓血流量がさらに少なくなり腎機能が一気に悪くなることがあります。
腎臓の血流を保ち腎機能の悪化を防ぐためにも痛み止めを服用する時には十分な水分を摂るように心がけましょう。利尿薬や降圧薬を服用している場合には、主治医とよく相談したうえで痛み止めを使うようにしましょう。
その他の痛み止めでは腎障害を来すことはあまりありませんが、基礎疾患や併用薬、体調などにより腎障害やその他の副作用を引き起こすことがあります。痛み止めを続ける場合には、その必要性と危険性についてよく理解して、必要性が危険性を上回る場合にも定期的に検査を受けるなど十分注意をしながら続けることが大切です。